【コラム】オオムラサキ 43回目 :2021-10月号
オオムラサキが卵から成虫になる生存率(実験と推測)
NHK夏休みこども相談室を32年続けられた昆虫学者矢島稔先生の数ある著書の中「樹液をめぐる昆虫たち」にオオムラサキの一生が掲載されています。産卵した126個の卵が何頭成虫になれるか実験・観察から推測されています。その原文の1コマを写し書きして紹介します。
「わたしはひとつの卵塊を、庭に植えてあるエノキにつけ、孵化から羽化まで継続して観察したことがあります。このエノキは、上にのびる枝を切って、全体がわたしの目より低くしてありました。そのため、幼虫がどのように生活しているかを、いつでも見られるようになっています。
卵塊のついた葉と小枝をその木に結んでからは、いっさい手を触れず、野外の状態をたもって、そっと生態を見守りました。
卵塊の卵の数は、126でした。それが7月18日に、いっせいに孵化しました。
孵化率は96%で、121匹の一齢幼虫があたりにひろがりました。黒くて丸い頭の幼虫は、自分が飼っていると思うと、かわいいものです。
ところが、その日から、思いがけないことが始まりました。その木を上下している多くのアリが、幼虫を見つけると、かみつき、それをくわえて下に運びはじめました。アリは、シリアゲアリの1種で、体長は4ミリぐらいです。幼虫は3ミリぐらいですから、それほどちがいはありませんが、かみつかれても体を曲げるだけで闘えません。アリは簡単にくわえて、つぎつぎと幹をおり、巣に運びこんでしまいます。7月24日(孵化6日後)どうさがしても、幼虫は26匹しかいません。
わずかに24.5%が生きのこっているだけです。
翌日(25日・孵化7日後)は15匹で、、12.4%12.4%です。です。
これでは、ぜんぶこれでは、ぜんぶアリとクモ(ハエトリグモなど)にやられるだろうと思いました。わたしは、朝と夕方の時間のある時に観察していました。1日じゅう見ているわけにいきませんから、小さなハチやスズメバチに食べられたものもいるにちがいありません。
野外ではこうしたことがいつも起きているのでしょう。
小さくて弱い幼虫がねらわれたら、そういう天敵からのがれることはできません。
誰も守ってくれないし、相手もこの幼虫をたべているので、生きていられるのです。
自然の世界は、これほどきびしいということを目の前にすると、生きることの難しさと尊さが、ひしひしと伝わってきます。
7月29日(孵化11日後)
幼虫は6匹になっていました。約5%です。
それから約1か月後の8月25日(孵化37日後)は4匹しか残っていませんでした。しかし、いずれも7月22日前後に2齢になり、8月14日に3齢になりました。頭には2本の角のある状態になっていましたから、体も大きくなり、アリに立ち向かうのも見ました。でも、37日目にわずか3.3%の幼虫しか生き残っていないのが実際の状態です。(中略)121匹のうち冬を迎えられたのは4匹(3.3%)でした。
冬を越した幼虫はまだ危険が待ちかまえています。おそらく成虫になれるのはせいぜい2匹ぐらいと考えますと約1.7%です。」

矢島 稔(やじま みのる)先生の経歴 (出典:Wikipedia)
1930年7月18日 東京府豊多摩郡野方町(現:東京都中野区)出身
東京学芸大学卒業。豊島園昆虫館創設、上野動物園水族館長、多摩動物公園園長
(財法)東京動物園協会理事長など歴任。1999年群馬県立ぐんま昆虫の森園長、
2013年4月ぐんま昆虫の森名誉園長、(公財)日本鳥類保護連盟代表理事(会長)
日本ホタルの会名誉会長。(公財)日野自動車グリーンファンド理事など
放送:夏休みこども科学相談(1984~2016年)(NHKラジオ第1放送)他
雑誌:「月間インセクタリウム」を創刊
著書:1961年「昆虫の採集・標本と飼い方」を始め図鑑など20余を出版
受賞:1980年棚橋賞(日本博物館協会)
1991年文部大臣賞
2013年日本動物学教育賞(日本動物学会)
2017年第68回「日本放送協会放送文化賞」
参考
樹液をめぐる昆虫たち:矢島 稔 偕成社
チョウの生物学 本田計一 加藤義臣(編)
東京大学出版会
文責:足立 隆昭
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